先日の24時間の車載やGPSログ解析ツールの整理が終わり、それらを使って解析しています。やはり現場では見えない事が色々見えてきてとても面白いなと思いました。

ところで皆さんはログ解析をしていますか?というお話です。最近はスマートフォンの普及により、以前に比べて格段にGPSログが取得しやすい環境になりました。それでもやはり専用機には勝てません。自分はご協力して頂いている Qstarz 様のGPSロガーを利用しています。

レースで使用しているのはこちらのモニタ付きタイプ。

Amazon.com の低評価は初期不良とか故障とか、実際の商品の評価というより店舗側の問題の様です。現場ではちゃんと使えていますし、今でもサーキットデータや解析ツールは更新されています。旧ユーザーには 現有のLT-Q6000で最新型のLT-6000S[GNSS]にバージョンアップしましょうキャンペーンをやっています。

さて、そのGPSログ解析とはどうしたらいいのでしょうか?大半の人はラップタイムと区間タイム、もしくはその最高速度・最低速度しか見てないと思います。というより、どうやって見たらいいのか?という情報は基本的に外部へ出てきません。その証拠に自分もこういった解析は一部教えて頂いたものの、大半は自己流でトライアンドエラーをして来ました。

ブレーキやアクセル、ステアリング角度等まで出るタイプのロガーはいくらでも使い道があるのですが、GPSロガーの使い道って…?ってなります。

勿論タイムは重要です。但し、タイムだけに気を取られてしまうと大切な事が見えなくなります。タイムは出すものでは無く出るものなのです。一文字違いですが、ここに大きな意味があります(と私は教えられました)

という訳でGPSロガーにも色々な使い道があるのですが、ここではひとつレース中のロングラン、もしくはある程度一定のラップをする場合について書いてみたいと思います。さすがに24時間のデータは現在ランキング争いをしている為公開できないので、2016年の自分のデータを公開。

X軸がラップ、Y軸がタイム(秒数)となっています。Y軸は上に行くほど短い、つまり早いラップになります。逆に下へ行く程遅いラップなります。そこに、多項式近似曲線を引いてあります。青い点線がそれです。多項式近似曲線はざっくり言うと、データの予想数値とかデータ全体の傾向から導き出す線です。

一般的にはモデル賃金の算出に使われています。20代ではこの位の賃金、30代では…と世代ごとに賃金を記録し、それを回帰分析する事で全体の平均値やグラフがどうなっていくのか、という予想が立てられるようになります。また突飛な数字は弾かれるので、20代で年収3000万!みたいな人のデータは回帰分析には反映されにくくなります。

さて、それをどうサーキットへ活かすのかという話です。サーキットを周回していくと減っていく物はタイヤとガソリン。あと体力と集中力ですね。ブレーキも減るのですが、今回は割愛します(ほんの数十周で無くなるパッドでは困るので)

タイヤは新品が一番よくグリップしそこから使っていくと一定の所で安定しますが、最後の方になるとグリップが低下していきます。摩耗(デグラデーション)だけでは無く、勿論内圧・熱ダレ(サーマル・デグラデーション)といった要因が考えられます。(偏摩耗は除外)

ガソリンは増える事が無いので、基本的には減る方向。つまり車重としてはどんどん軽くなる方向になります。車は軽ければ軽い程タイムに反映していくので、周回する事でタイムは早くなっていきます。

つまりタイヤの面ではタイムが落ちていく原因となり、ガソリンの面としてはタイムが上がる方向になります。このバランスが取れているとプラスマイナス0となります。ここに体力・集中力が入ってきます。勿論低下すればタイムは下がっていきます。

さて、ここでグラフを読み解きます。第1・第2スティントは連続走行、第3スティントはもっと後で、かつレブ縛りがついています。(レブ縛りは燃費やエンジン保護で使われます)

グラフの多項式近似曲線に注目してください。

まず、体力面を見ると2スティントした後、3スティント後の開始ラップ数周を比較します。第1,2が132秒前後に対して第3が133秒前後。しかしレブ縛りが入っているので、単純に考えて体力的には問題なさそうだと判断できます。集中力に関しても、第1,2の中盤以降グラフが一定ないし少し上昇(タイムが早い)しているので問題はなさそうです。第3でも一定なので、体力・集中力共に問題無いと思えます。

これをタイムで見てしまうとグラフの増減がある部分、特にのこぎりのように上がったり下がったりを繰り返している(29~42周)ので、集中力が切れている?と見てしまいがちです。しかしこのレースはスーパー耐久。GT3からVitz,Fitまで混走しています。速い車両と悪いタイミングで譲る事になるとこの様な上限は避けられません。しかし近似曲線的には一定しているので問題が無いと見るべきです。

次にタイヤです。近似曲線は40周目辺りから緩やかにタイムが落ちている様です。つまりこの辺から摩耗が進んでいるのかな?と予想できます。ここでGPSロガーについている最高速度・最低速度と比較します。コース特性にもよりますが、特に最低速度が連続して落ちているとタイヤが厳しくなっている証拠になります。「横方向に粘ってくれない=何らかの原因でタイヤが機能していない」という訳です。第1,2の最終周にタイムが上がったのは交代してタイヤを使い切って良いという指示が出たので、使い切る様な運転をしました。

第3スティントで18周目から落ちているのは、順位が確定したからです。これ以上頑張っても意味が無いしエンジンが壊れてリタイヤするのも嫌だった為、ゴールまで運ぶという作業に徹しました。そういう行動がグラフに出ています。

この様にその当時の状況とグラフを照らし合わせる事で、色々な事が見えてきます。これを複数のドライバーと共有する事で、例えば全員が40周目辺りからタイムが落ちているようであれば、タイヤライフはそこだ!という予想もできます。

それからドライバーの癖も見えてきます。最初に張り切って最後に力尽きる人のグラフはS字の様になります。淡々と走る人は大体一定です。体力や集中力の無いドライバーは基本的に右肩下がりのグラフになります。面白いですね。

GPSロガーはサーキットのどの辺りを走ったか、というラインが作れるものもあります。それを見て上手い人と比較する事で、ラインにおける最高到達速度・コーナー中の最低速度の比較も可能です。この様に使える情報は何でも使う!という心づもりでいれば、きっと速くなっていくはずです。そうやって無駄を削ぎ落としていけば、自然とタイムは出るものです。全てはひとつひとつの積み重ねである、と思ってください。

以上、簡単なGPSロガーとラップタイムの見方でした。

(※ あくまで自己流です)